借地権が遺産であるか否か

紛争No1

①借地権が遺産であることの確認を求める訴え

父が地主と借地契約を結び(第1借地権契約)、借地上に建物を建て、商売を営んでいた。兄が父の家業を手伝い、後に地主から底地を買い取った。同時期、兄は地主との間で土地賃貸借契約を結んだ。(第2借地権契約)父は兄に、賃料を払ってこなかった。父死亡後、兄弟の間で、父の借地権も遺産として分けるべきだと紛争になった。兄は、すでに借地権はないと主張。

【判決】

第2借地権契約により、第1借地権契約とは別の借地権設定契約がなされた。父の建物については当該土地に何らかの土地利用権があったと認められるが、第1借地権契約とは別物。借地権は遺産でない。

②建物は父の遺産なので、遺産分割調停(家裁)

兄は、父から借地権相当額の贈与を得ていたとして、兄に特別受益があったと認定された。兄の取り分が減らされて遺産分割


紛争No2

①借地権が遺産であることの確認の訴え

父が地主と借地契約を結び、借地上に建物を建て、妻と住んでいた。建物所有権は父母1/2ずつ 。父母が歳を取ってきたので、長男に同居を持ちかけ、長男は躯体部分を残し、改築のうえ、売買を原因として長男単独名義にした。父母、長男で住んでいたが、地主の勧めにより、底地を買い受け、長男98/100、父母各1/100で移転登記。以後は長男父母とも地代は払っていない。

【判決】

借地契約は合意解除され、残っていない。

②遺産分割で、借地権部分の長男への贈与が想定されたが、他に遺産がなく、特別受益の調整もできなかった。

土地の明渡請求訴訟

紛争No3

共同住宅所有目的で土地を借り、建物を建て、建物を第三者に賃貸した。地主が用法違反を根拠に賃貸借契約解除、建物収去土地明渡請求訴訟提起。共同住宅目的であることは契約で合意できていた。駐車場の構造、規模や使用の対価が通常程度のものなので、相当な借地の利用方法の範囲内であるとして、請求を棄却。


紛争No4

建物を建て、人に貸していたが、地主に居住用の約束が駐車場の営業を行っているとして、土地賃貸借契約解除、土地明け渡しを求められた。
当事者間では、以前に建物収去土地明渡請求訴訟が提起され、賃借人において3年以内に建物を新築すると言う内容の和解が成立。しかし、賃借人は、厚さ10センチのコンクリートを打ち、駐車場として営業。判決は、和解当時当事者間で予定していた土地の利用とは著しく異なるとして、建物収去土地明渡を命じた。


紛争No5

増改築禁止特約がある賃貸借であったが、地主の承諾をえないで、2階部分の壁天井に耐震補強工事を設して、土地賃貸借契約解除、土地明け渡しを求められた。床面積の著しい増加、附属建物の新築が増築というところ、床面積の増加は認められず、土地明渡請求は理由がない。

地代をめぐる紛争

紛争No6

地方都市の所有土地を保育園に賃貸していた事案。地主は地代スライド(地代等自動改定特約)を求めた。調停申立をしたところ、借地人から和解の申出があり、地代増額で合意した。地代スライドは合意できなかった。

最高裁の判例(平成15年6月12日)…地代等自動改定特約は、その地代等改定基準が借地借家法第11条第1項の規定する経済事情の変動を示す指標に基づく相当なものである場合はその効力が認められるが、当初は有効であったとしても、改定基準を定めるに当っての基礎となった事情が失われ、同特約によって定められた地代等の額が借地借家法第11条第1項の趣旨に照らして不相当なものとなった場合は、当事者はもはや同特約に拘束されない。

ポイント:地代スライドで合意できても新たな火種を産んだ可能性

借地非訟事件

紛争No7

借地人には配偶者も子もなく、法定相続人がいない状態だった。借地人は、従兄弟に借地権を相続させる遺言を残した。借地人が死亡し、従兄弟が遺言で借地権を相続したのであるが、遺贈の場合は借地権の相続に地主の承諾が必要。従兄弟が地主に借地権譲渡承諾を求めたが、地主は自己使用を理由に承諾しなかった。

そこで、従兄弟は、借地非訟の訴えを提起。その中で、地主が自ら土地の賃借権を借地上の建物と一緒に優先的に買い取ることができる権利(「介入権」といわれています。)を行使した。地裁では鑑定委員会が設けられ、借地権の評価と譲渡承諾料の評価がなされた。

結果として、地主が借地権を買い取り、従兄弟は借地権相当額-譲渡承諾料をもらった。

ポイント:借地非訟では、鑑定費用が国負担で、当事者は負担しない。


紛争No8

借地権に相続が発生し、長男が相続したが、その際、借地契約が期間満了を迎えた。 地主は、口頭で更新拒絶したが、長男は住み続けた。地主が1200万円であれば、借地権を買い取ると申し入れたが、長男は相当額でないとして拒否した。長男は、借地上の建物も老朽化していて住みにくいので、できれば売ってマンションを購入したい意向。

しかし、地主は、譲渡承諾をしない意向を示した。裁判所の代諾許可を得て、借地権を売却する方法も考えたが、業者が買い取るとなると、手続に付き合ってくれる業者も確保できず、建替承諾も得ないとならないので、より手続が煩雑になる。譲渡承諾料、建替承諾料等の出費で、長男の手元にはあまり残らない計算になった。万一の賭で、借権譲受人をダミーで用意し、代諾許可申立、地主が介入権を行使する事に賭けた。

期日で、地主が1800万円を提示。賃貸借契約を合意解除、長男が1800万円を受け取るのと引き換えに建物を収去し土地を明け渡す内容で和解した。

ポイント:地主に借地権を回収したいという意向が強く、介入権行使と同視しうる結果を得ることができた。